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終業式の日、小学一年生だった私は栽培していたアサガオのバケツを持って帰宅中だった。いつものようにバロン――看板にちなんで、私が勝手に名付けたあだ名だ――の横を抜けて、横断歩道へと足を踏み出した。これから始まる夏休みのことばかりを考えていたため、信号さえ見ていなかった。
バロンが吠えた。彼の声を聞いたのは、その時が初めてだった。体重が私よりも重い大型犬である。温厚そうな顔に似合わず鳴き声は野太く、太い前脚はまるでライオンのように見えた。まるで野獣が吠えかかってきたようで、怖くなって私は走りだした。バロンは立ち上がり、追いかけてきた。
自分が愚かなことをしたと知ったのは、目の前にダンプカーが聳え立ってからのことだった。私は足がすくんで立ち止まった。どういう反射か分からないが、私の目はすばやく信号の色を確認していた。赤だった。
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