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私は夕立に追われて、手近なビルディングへ走った。傘を持っていなかった。さきほど急に風が強く吹いて空を見上げたのだが、林立するビルに狭められた視界では湧き立つ雲の様子がわからず、気づくと土砂降りの雨に囲まれていたのだ。
ビルの軒先で首筋を流れる汗を拭っていると、シャツの中が蒸してきた。庇も出ていない垂直の壁の下を軒と呼ぶのだろうかと、どうでもいいことを考えつつ、ネクタイを緩めてジャケットを脱いだ。
数メートル先の道路ですら、雨と車の立てる水しぶきで霞んでしまっていた。私の他には誰もおらず、見るべき物もなく、いささか手持ち無沙汰だった。
なんの前触れもなく、稲光が私の目を射た。同時に雷鳴が体を鷲掴みにした。私は耳を塞ぎ、目を閉じ、背を丸めてうずくまった。雷だけは、子供の頃から大の苦手だ。
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