ゆうくん。

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ゆうくん。

 私が三十代で、S県の保育園に勤務していた時のことだ。  まだ新人の保育士だった私は、以前勤務していたよりもずっと規模の大きい保育園にてんてこまいになっていた。なんせ、子どもの数は多いのに、保育士の人数はさほどいなかったためである。  勿論、国は保育士の配置基準というものを定めている。保育士一人あたり、子供を何人見られるか?見ていいのか?そういう基準だ。事故を防ぐために必要なルールであり、この園も保育士不足でありながら一応は最低基準を守ってはいる。が、最低基準を守っていれば悠々と保育ができるなんてことは実際ない、というのは少しでも実情を見たことのある関係者、ならびに子育てをしたことのある親御さんならわかることだろう。  基準では、0歳児の場合保育士一人につき三人。一歳から二歳までなら保育士一人につき六人。三歳なら二十人、四歳以上なら三十人までと決められている。が、0歳児だけ見ても想像がつくはずだ。一人世話をするだけでてんてこまいなのに、一人の保育士が果たして三人も同時に見られるのか?それが十二分に大変であることは言うまでもなく明らかだろう。  ちなみに、子供の事故は赤ん坊の時も多いが、本人が立って歩くようになってからも非常に多い。数秒眼を離した隙にやれ道路に飛び出していた、側溝に落ちていたなんてことも珍しくないからだ。彼等は時として、大人が思いもよらない突飛な行動をする。そのすべてを予測し、事故を百パーセント防ぐなど実際不可能に近いのである。ましてや、複数の子供を一人の保育士が見ていたら尚更だろう。 「そろそろ親御さんのお迎えの時間です。この時間を過ぎてもお迎えが来ないようなら、順次連絡を入れていってください。ちなみにタツミ君のお母様は保育士が一緒にいないと即座にクレームを入れる方ですので注意してくださいね」 「はーい」  確かに、小さな子を持つ親が心配性になるのはわかる。子供を溺愛するあまり、色々なことに過敏になりすぎて保育士に不信感を抱いてしまうということも。  だがしかし、保育士も一人の人間でしかない。あっちからもこっちからも“うちの子をちゃんと見てくれていないんじゃないか”と小さなことで突っかかられてはたまったものではないのだ。その子だけを見ていればいいなんてことでもないのに、親のクレームまで一から十まで対応していたら時間と人手がいくらあっても足らないのである。
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