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「かぐや姫について、ずっと考えてたら止まらなくて。そうだ、藤代君にもせっかくだから意見を聴いてみようかな。……この教科書だけだとかぐや姫のお話って、ほんと最低限しか書いてないんだ。かぐや姫が竹の中でおじいさんに見つけられて、三人の貴族に見初められて断って、帝に求婚されて、最後に月からお迎えが来るっていう」
伽耶いわく。物語の大筋はそれで正しいのだが、実際はもっと細かな描写や表現がたくさんあるのだというのだ。
まあ、小学生向けの国語の教科書で、現代人が読むのにも苦労するような難しい言い回しが出てくるはずもないし、大体全文掲載してたら本がどこまでも分厚くなってしまうだけだろう。教科書に載っている他の物語だって一部分だけを切り取って掲載するのが基本なのだから。
彼女が一番疑問に思っているのは、主に二つ。
何故かぐや姫は地上に降りてきたか?
そして、かぐや姫が月に戻らないようにする方法は本当にないのか?だ。
「私、はっきり言ってかぐや姫はすごく自分勝手で迷惑でわがままな人だと思うの」
「お、おお?は、はっきり言うね」
「だってそうでしょう?最初におじいさんおばあさんと出逢った時にはもう、月に帰らなくてはいけない日が来るのがわかってたはずだよね。それなのに、散々世話になって、いろんな人を振り回しに振り回して、最後は自分を愛してくれた人達を傷つけてさっさと月に帰るんだから。原文ではかぐや姫は“これまでの愛情も弁えずに帰るのが残念だ”とかなんとか言うけど。本当に申し訳ないと思うなら、そのまま月になんか帰らなければいいと思わない?」
「う、うーん」
なるほど、伽耶が言うことも尤もなのかもしれない。そもそもかぐや姫は“眼が覚めるほど美しい、人ではない姫様”ということばかり描写されているものの、実際どのような性格であるかはあまり丁寧に説明されていないような気がするのだ。誰か有名な作家が言っていた言葉を借りるならば、“このキャラクターが優しいことを示すなら、優しいんだなと読者が感じるエピソードを入れるのが当然だ。それもなしにただ優しいとだけ書いても誰も納得しないだろう”である。
かぐや姫や美しく心清らか、であるらしい。
しかし心清らかと分かるようなエピソードにまったく覚えがない。そりゃ、伽耶のような“実はものすごいわがままだっただけじゃん”的な解釈をしたくなるのも当然と言えば当然なのかもしれなかった。
「かぐや姫に対してどうこうというより……月の都の人の態度が超絶ひっでーなあとは思ってたかな」
僕はじっと教科書に眼を落として言う。
「だって、何かにつけて地上のことを“穢れた場所”だのなんだのって言うじゃん。かぐや姫を連れていく時も、“汚いところの物を食べてたから気分悪いでしょ”みたいに労っててかぐや姫が嫌な顔してるし。なんというか、すごく傲慢で潔癖なかんじ?」
「だよね?」
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