かぐや姫は抗いたい

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「その上で、実はかぐや姫がわがままな人だったって思うなら……ひょっとしたらかぐや姫は、そんな月が嫌で逃げてきちゃったのかなーって気がしないでもないかな。なんか、罪を犯したから地上に落とされたとかなんとかどっかで読んだ気がするけど、どんな罪なのか書いてなかったし……。あ、そっか。むしろ、地上行きになるために、月でちょっと悪いことしたのかも?王様が大事にしてる花瓶割っちゃったとか!」 「ぶっ」  子どもが考える“ちょっと悪いこと”なんてその程度のものだ。僕の言葉に、伽耶は思いきり噴出していた。 「さ、さすが藤代くん!そうかもね!地上に行きたかったから、王様の寝室に忍び込んで花瓶割ったのかも!あ、ひょっとしたらベッドでトランポリンしたかも!でもって布団破って、羽根があっちこっちに飛び散っちゃって!」 「場合によってはベッドの床板ブチ抜いたかも!」 「あっはっはっは!それいい、アグレッシブかぐや姫!!」  なお、平安時代に天蓋ベッドや羽根布団があったかどうかは知らない、念のため。 「実際、地上に来たかぐや姫って嫌そうじゃないよね。おじいさんとおばあさんのところで幸せに暮らしてるかんじ。ド田舎の山の中って、退屈な気がするけど」  うんうん、と僕は頷いて言う。  要するに、かぐや姫は流刑に処されたというよりは、自分が望んでそこに来たと考えた方がしっくり来るということだ。  地上を穢れた場所だと忌み嫌い、人を見下すようなことばかり言う王様たちに嫌気が差したと思えばちっともおかしなことではない。 「でも……僕思うんだけどさ。望んで地上に来たなら、何であっさり月に帰っちゃったのかなーって。家族が恋しくて泣いてる描写とかあった?ないよね?月からのお迎えが来てしまうのがつらくて、お別れが悲しくて嘆いてる描写は何度かあった気がするけど」 「そこなの。……テレパシーみたいなので、“もうすぐお迎えが行くから覚悟しとけ”って王様から連絡が来て諦めちゃったのかなって」  こう、と彼女は両手をくいくいっと頭の横で動かした。テレパシーを示しているつもりらしい。 「実際、お迎えが来た時、帝の軍隊もおじいさんおばあさんも逆らえずにかぐや姫を差し出してるでしょ?月の人達はその光の中をゆうゆうと動いて、かぐや姫を輿に載せて行ってしまった。そんな不思議な力があるって知ってたから、早々に諦めたんじゃないかなって。だからさ」  どうやら、最終的にこれが言いたかったらしい。伽耶は困ったように眉を八の字にして言ったのだった。 「散々迷惑かけたかぐや姫は、おじいさんおばあさんに報恩する義務がある。地上に残らなくちゃいけなかったと思うし、本人もほんとは望んでたはず。……じゃあ、どうすればお迎えを拒否できたのかな、かぐや姫は」
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