かぐや姫は抗いたい

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 かぐや姫と、地上の人達の気持ちを想像して、そこをずっと悩んでいたということらしかった。優しい子だなあ、と僕はちょっとだけ感動してしまう。物語に共感して、登場人物の気持ちを想像すること。国語の勉強でよくやることだけれど、僕は未だに苦手だったりする。自分ではない誰かの気持ちを考えるというのは、言うほど簡単なことではないからだ。  だから、こんな答えも間違ってるのかもしれない。なんせ、僕はかぐや姫ではないのだから。でも。 「僕が、かぐや姫だったら」  思いついたことは、どうしても口にしなければ気が済まない性分だったのである。 「月の王様を、ブン殴る!」 「へ!?」 「だってさ、月の光を浴びて動けなくなったの、おじいさん達地上の人達だけじゃんね?かぐや姫本人は月の住人なんだし、多分抵抗できたんじゃない?だったらさ、かぐや姫が“穢れた地上の~うんうんかんぬん”言う失礼な王様をぶっ飛ばして、その場から逃げちゃえば良かったんじゃない?多分本人は動けたと思うんだよな。……あ、それなら、十二単なんか着てたら身動きできない!ジャージ着てアップして待ってないと!!」 「ぶふっ」  あっはっはっはっはっは!と今度こそ高らかに笑い声が上がった。完全にツボってしまったらしい伽耶の声である。 「あっはっは……っ!そ、その発想は、ちょっとなかった!い、いいのかな、そんなことして!」 「いいに決まってるよお!」  何だろう。僕は気分が高揚していた。普段の物静かに微笑んでいる伽耶もいいが、大口開けて堂々と笑っている伽耶はもっともっと可愛く見えたのだ。  同時に、彼女が喜んでくれたのが本当に嬉しかった。そうだ、それがいい。かぐや姫は抗いたいなら、そうすればいいのだ。  運命というのはきっと、言い訳の言葉ではないはずなのだから。 「誰だって、好きな場所で自由に生きる権利がある!かぐや姫にもあるさ!迷惑かけたならその分、おじいさんおばあさんや帝を助けて地上で頑張らないと!うん、それがいい!」  僕が断言すると、じゃあさ、と彼女は笑い過ぎて涙目になりながら言ったのだった。  「かぐや姫は、体鍛えておかないとね。あ、私もせっかくだから、空手習っちゃおうかな?女の子でも入れる?藤代君のおうちの空手道場」 「ほ、ほんと!?」  現金と言いたければ言え。  彼女が道場に通うようになってから、僕は空手をやるのがちょっとだけ楽しくなったのだ。もし月野伽耶がいなければ、僕が十年後に――オリンピックの代表選手になることも、ひょっとしたらなかったかもしれないのだから。
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