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最終話 別れと出会い
昭和20年7月28日
現代日本に帰還する自衛隊員、民間人が岐阜にある陸軍各務ヶ原飛行場
に集結した。
自衛隊員には命令が出ていたので、必ず全員が戻る必要があったが、
民間人は残留希望があればその時代に残り余命をおくることも出来た。
終戦日まであと3日となり、米軍による空襲も行われなくなったため
各務ヶ原飛行場には帰還者だけでなく、日本軍、特に振武隊の若者達が
多く見送りに訪れていた。
伊藤大尉「まさむねー!」
岩橋少尉「お別れだね・・・」
(自衛隊は国防軍となり階級の呼称は日本軍から踏襲された)
伊藤「君らのおかげで俺たちは祖国を守ることが出来た」
伊藤「ありがとう」
岩橋「いや、守ったのは君達だからこちらが礼を言う側だよ」
伊藤「これから まさむね はどうする?」
岩橋「航空自衛隊は無くなって国防空軍になるらしいけど」
岩橋「日本を守る任務は変わらないと思う」
岩橋「それより きとくの方は?」
伊藤「俺も国防空軍に入隊するつもりだ。また逢えるといいな」
岩橋「そうだね・・・・」
2人はかたい握手をしてお互いを見つめあった。実際は80年近く未来に
戻るので伊藤大尉と現代日本で逢える可能性は低い。
やがて、かなり狭くなっている未来とのトンネルを抜けて岩橋少尉らは
振武隊の若者達に見送られ現代日本へと戻っていった。
その数日後。
現代日本に戻った岩橋少尉は元々の配属先である福岡県 築城基地に
いた。
そんなある日、岩橋少尉に訪問者があった。
基地内にある食堂で岩橋少尉は中年の男女2人の訪問を受けた。
訪問者の男性「岩橋少尉ですね?」
訪問者の男性「お顔はいつも拝見しておりました!」
岩橋「???」
訪問者の男性は古ぼけた紙を見せた。写真が印刷されたものだった。
それは明野陸軍飛行学校で岩橋少尉がスマホで取った集合写真を
印刷したものだった。
訪問者の男性「あなたを見てこの写真のままだったので
すぐ分かりました」
訪問者の男性「過去にいかれていたのですね?
それが機密事項であることも了解しています」
岩橋「・・・」
訪問者の男性「ああっ。名乗り遅れました。私、伊藤と申します」
岩橋「伊藤!! まさか 伊藤大尉の・・・・」
伊藤「はい。孫です」
伊藤「こちらは私の妻です」
そういって伊藤氏は横にいる女性を紹介した。
伊藤「祖父は10年前に95歳で他界しました」
伊藤「本日、お伺いしたのは祖父から訪問日時を指定されておりまして」
伊藤「岩橋少尉の所在は国防省に問い合わせました」
伊藤「祖父から岩橋少尉に渡してほしいと手紙を預かっています」
伊藤「これが祖父からあなた宛てに預かっていた手紙です。
自分が死んだら指定した日時に渡してほしいと・・どうぞ」
伊藤氏はそういって1通の封筒を岩橋少尉に差し出した。
岩橋少尉は封を開けて手紙を開いた。
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まさむね、元気ですか?
これを読んでいるという事は、俺は既にあの世の住人になっている
わけだ。実は君らがこなかった史実というものをひょんな事から
知ったのだが、それだと俺は特攻部隊の57振武隊隊長として
昭和20年5月には沖縄で戦死していた事になっている。
君らのおかげで俺はこの国を守る仕事が出来て、子も孫も出来て
人生を全うする事が出来た。
本当にありがとう。
俺はこれからあの世でうまい酒でも飲んで楽しくやっているので
まさむねはこちらへはゆっくり来るといい。
じゃーまた逢おう 友よ! きとく
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手紙を読み終えた岩橋少尉は天を見上げた。そして
岩橋「伊藤さん。おじいさまの最後は?」
伊藤「老衰で眠るように亡くなりました。
人生を全うしたんだと思います。」
岩橋「そうですか・・・・・・。」
岩橋「今日はこれを届けて頂いてありがとうございます。」
岩橋「私にとってあなたのおじいさまは親友でした。」
岩橋「手紙にもまた逢おうと書いてくれています」
岩橋「そのうち・・・・逢いに行きます」
こうしてアレは阻止された。
昭和21年春には陸軍各務ヶ原飛行場、そして現代の国防軍岐阜基地
にあった過去と未来を結ぶトンネルは完全に消滅した。
アレを阻止せよ! 完
最後までご覧いただきましてありがとうございました。 青い星
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