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第16話 切り札の登場
昭和19年11月1日。
「Tokyo Rose」と呼ばれるB-29の偵察型F-13が東京を空襲する
準備のため、占領したテニアン島の飛行場より東京に向け飛び立った。
内地防空計画に基づき大島に設置されていた陸軍電波監視所より
帝都に接近する敵機の第一報が届いた。これに対して
ドーリットルによる東京初空襲以来となる帝都上空の飛行を許すまいと
1機の陸軍機が舞い上がった。
特殊防空戦闘機 キ109として開発がスタートし、陸軍が正式採用した
防空戦闘機 神龍 である。
帝都防空の為、配備された最初の機体であった。
史実では神龍の名称は海軍の特攻専用機に付けられる名称であったが
特攻作戦の全面中止によりこの名前は陸軍機が採用した。
双発の四式重爆撃機 飛龍 をベースとして現代日本より贈られたターボ
チャージャーにより高高度迎撃機となったこの機体には
75mm高射砲が1門搭載されていた。
射手は副操縦士が行う事になっており、三菱で量産が開始されてから
この機体が配備された部隊では訓練が日々行われていた。
Tokyo Rose の操縦かんを握るデービス大尉は日本上空で消息を絶つ
偵察機が増えている事に不安を感じていた。
偵察機は1機で行動するので撃墜されても、それを報告する者がいない。
東京の偵察を命じられた時、彼は無事に帰って来られるよう神に祈った。
彼が駆るF-13が浦賀水道の上空に差し掛かった時、後方で周囲警戒
していたウィリアム曹長が
ウィリアム「下から双発機らしきものが1機接近中!」
と告げた。
ターボチャージャーのお陰で高度9000mを超えても上昇力が落ちない
神龍は高度10000mを飛行する目標に近づいていた。
後方から敵との距離は縮んでいったので、この高度で敵機より速度が
優っていると言う事になる。
(接近している神龍の機内)
酸素マスク越しで少しこもった声で・・
機長の三宅大尉「敵機、目視距離!」
副操縦士の坂本少尉「主砲発射準備にはいります。
操縦おまかせします!」
酸素マスクをしているので機内の移動も一苦労である。
坂本少尉は操縦席を離れて主砲の後ろに回り砲弾をセットした。
そして、腹ばいになって主砲の照準器を覗いた。
三宅大尉「敵機、推定距離500m」
坂本少尉「進路、ちょい右・・・・よし!」
神龍の主砲は固定されているので照準は機体の向きで行われる。
坂本少尉は照準器ごしに敵機を注視しつつ、操縦を受け持つ三宅大尉に
細かな姿勢指示を伝えていた。発射タイミングは射手に一任されている。
やがて、安全装置が解除され・・
坂本少尉「主砲、てーっ!」
神龍の主砲が火を噴いた。
重爆撃機を改造した機体とはいえ、75mm高射砲の反動は発射したその
一瞬、機体が停止したかと感じるほどのものだった。
発射された榴弾は白煙を引きながら敵機に向かうのがハッキリ見えた。
弾頭には現代日本より提供された近接信管がセットされているので
目標に命中しなくても近くを通過すれば榴弾が炸裂する。
そして
猛訓練の成果か、前方300mに迫っていた敵機に主砲弾が見事命中!
F-13は主翼を残し、胴体がほとんど木っ端みじんに弾け飛んだ。
三宅大尉「命中!撃墜確認。 坂本よくやった」
坂本少尉「はいっ!」
たった1発の砲弾で勝負を決めた神龍は基地へと帰還して行った。
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