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第8話 南シナ海 波高し
駆逐艦 島風 はキスカ島撤退作戦に参加の後、シーレーン防衛の任務が
与えられた。
当時の駆逐艦は新しいものが1艦作られると同型艦が姉妹艦として
作り続けられていくことが多いが、島風型は島風1艦だけである。
島風は五連装魚雷発射管を3基という重武装に加えて新型機関により
40ノットを超える船足を持つ高速艦なのだが、
戦術の変化(艦隊戦が航空機中心となり魚雷戦が減少)や
製造するのに高コストである理由から姉妹艦は作られなかった。
しかし、シーレーン防衛の為、
現代日本より提供された航空レーダー
九三式水中聴音機
現代日本より提供された水平ソナー(周囲が見渡せる魚群探知機)
などが新しく装備され潜水艦ハンターとして活躍することになった。
艦長の 広瀬弘中佐 は「鬼の広瀬」の異名を持つ潜水艦狩りに執念を
燃やす艦長である。
対潜水艦戦闘はお互い敵が見えない状態で戦うので、長期戦に
なりやすい。
島風は敵潜水艦の間で「しつこい艦」として有名であった。
今回、島風が護衛する船団はタンカー2隻と輸送船3隻からなるもので
僚艦の浜風と共に海中に目を光らせていた。
現代日本より提供された68式324mm 3連装短魚雷発射管は
浜風は装備されているが島風には装備されていない。
元々重武装の島風には現代日本よりの贈り物を装備できるスペース
がなかったのである。
九三式水中聴音機 はこの時代の国産品としては優秀だったが、潜水艦用に
設計された経緯もあり、水上艦で使用すると自身が出す騒音のため
探知距離が500m程度になってしまう。
よって、水中聴音する時は「停船して探知」を繰り返していた。
接敵することもなく、順調な船旅が数日続いていたが、行程の半分を
過ぎたあたりで停船中の島風 聴音員より
聴音員「スクリュー音 聴知!」
が告げられた。
聴音は海底方向に向けて行われるので船団の音ではない。
広瀬艦長「聴音員! 詳細送れ 」
伝声管に向かって広瀬艦長が叫んだ。
やがて
聴音員「3時方向 距離は推定2000から4000m 」
聴音員「こちらに向かってきます 」
広瀬艦長は探知された潜水艦の進路からこの潜水艦は船団の下
を通過する意図があると考えた。
なぜならこの潜水艦がやってきた海域が深度が浅い海域であり
その位置から船団を狙って魚雷発射した場合、浅い海域に逃げること
になるからである。
逆に潜水艦が向かっている海域は海底まで500m以上ある海域
なのでそちらから攻撃した場合、退避行動が格段にし易くなる。
現在、島風はスクリュー停止しているので通過を試みている潜水艦に
島風の存在は知られていない。
広瀬艦長「ソナー員、 探知はじめ!」
広瀬艦長は現代日本より提供された水平ソナーで敵潜の正確な位置の
探知を指示した。
やがて
聴音員「3時方向 距離は推定500m未満 」
ソナー員「艦影らしきもの 探知」
ソナー員「本艦の前方100m 艦影らしきもの 通過」
広瀬艦長に伝声管を通して次々報告が来た。
広瀬艦長は報告を聞きながら船団の反対側にいる僚艦の浜風と
現代日本より提供された144MHz無線機でやり取りしていた。
広瀬艦長は敵潜を浜風に搭載された「マーク44短魚雷」で仕留めて
もらおうと敵潜の方位や潜水深度などを伝えた。
浜風は提供された敵潜の進路から未来位置を予測し、魚雷発射位置まで
高速移動したのちスクリューを停止した。
敵潜水艦側も水上のスクリュー音は探知していたはずだが、浜風が
高速移動中は船団の下を通過中で多くのスクリュー音により
浜風の音は探知できていなかった。
やがて
再びスクリューをまわして速度を出しはじめた浜風より
警告用爆雷が2発投下された。
これは念のため、探知した潜水艦が友軍であった時の対応である。
爆雷がさく裂し水中聴音機が一時使用不能になるが、浜風にも
水平ソナーが装備されているので潜水艦の動きは分かっていた。
そして浮上してくる気配がないことから敵潜と判定された。
やがて浜風艦長の号令で マーク44短魚雷 1発が発射された。
マーク44短魚雷 は「ピーン」という探信音を発しながら音が反射
する方向に向けて電気モーター推進で突き進んでいった。
約1分後、水上に大きな水柱が出現した。命中である。
やがてその付近には大量の重油が浮かんできた。
敵潜の乗組員は全員戦死である。潜水艦の最後は悲惨だ。
この時撃沈した潜水艦は
米海軍バラオ級 USSアーチャーフィッシュ
であった。
現代日本介入前の、つまり本来の史実であれば、この潜水艦により
大和級3番艦より空母に改造された
空母 信濃
が撃沈されたのだが、これで空母 信濃の運命も変わることになる。
なお、空母 信濃は史実より半年以上早く空母化工事が行われた。
これは日本海軍の防空計画に基づくもので、やがて日本近海で
高高度迎撃用 烈風の発艦基地となるのである。
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