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第9話 老人たちの活躍
現代日本から派遣されてきた技術者達は例外なく老人ばかりだった。
これは現代日本の政府が定年を過ぎた技術者のみをターゲットとして
個別に戦時日本への出張を交渉をした結果である。
選ばれた人材は
・漁業用レーダーやソナー(魚探)
・航空機
・金型
・漁船用排気タービン装置
・アマチュア無線機
・電化製品
などを製造する企業で定年まで勤め上げた技術者達で事情を話して
秘匿義務を了解してもらった人のみ約200名が選ばれた。
1人当たり500万円の支度金が用意されたが、中には
あの時代の日本のためならと支度金を辞退して自ら赴いた人もいた。
また、中には業態ではなく主に製造業で活発に行われている
QCサークル活動でデミング賞を受賞した一団も20名ほど選ばれた。
QCとは品質管理(Quality Control)の略語で日常業務とは別に
品質改善のため自発的に行われる活動のことで戦後、日本の品質向上
に大きく貢献した活動である。
この活動の元となったのは米国の統計学者エドワーズ・デミング氏
による品質管理を科学的、統計学的に分析し問題点を解決する手法で
同氏が来日して日本の企業にこの手法を伝授したことで
日本の工業製品の品質は格段に向上した。
現在でもこの活動の全国大会が開かれており、優勝者には
「デミング賞」が贈られるのだが、この賞がその企業における
高品質の証となっている。
品質が良い、高品質とはどういうことなのか?
簡単に言うと高品質なものは「バラつきが少ない」という事である。
同じメーカーの自動車を購入して同じような使い方をしても
ある自動車は5年で故障して、同じある自動車は10年経っても
故障しない場合はその自動車の品質は高いとは言えない。
これは長持ちするのが高品質な訳ではなく、同じ使用期間で壊れることが
高品質なのである。
設計寿命5年で製作された製品がだいたい5年で壊れれば高品質と
言える。
戦時日本では「品質」に対する概念が希薄で生産数のみにこだわる傾向が
特に軍需産業に多かった。
結果、額面上では武器が行き渡っているが、故障が多く数だけの力が
発揮されないケースが多かった。
戦時日本の製造業に品質管理の概念が本格的に導入されることは
革命的なことなのである。
派遣された技術者達は輝かしい日本の製造業を育て、支えた世代の
人々であり、かれらが持つ専門技術やノウハウは戦時そして戦後の日本
にとって何よりも大きな力となった。
また、派遣された技術者達も現代日本とは全く違う一途に学ぼうとする
戦時日本の人々の姿勢に感動し、自分が持つ技術の全てを教え込んだ。
派遣期間は1年とされていたが、現代日本に戻ることを拒否して
その時代に生きる事を選択した技術者も少なくなかった。
戦後日本の発展はこれにより史実よりはるかに早い段階で進む事に
なった。
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