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私の赤く染まった目と頬はきっと夕日が隠してくれる。私の目から頬へとつたうこの涙はきっと夕立が流しさってくれる。
でも、この胸の痛みと私の罪はもう消えることがない。消してしまえる゛唯一の人゛がいなくなってしまったから…。
私は走る。宛もなく走る。抑えきれない衝動をどうにかしてしまいたかったから。
でも、がむしゃらに走り続ける私の体は走っても、走っても火照るどころか冷め続けるばかりだった。
きっとこれは遠くから聞こえた放課のチャイムと同時に降り始めた夕立のせいだけではないだろう。多分、窓に激しく叩きつけられる雨音の中、はっきりと聞こえた彼女のその一言のせいだから。
「ありがとう、さようなら」
言わないでほしかった。聞きたくなかった。…私が欲しかった物は幼い時からいつも変わらない。胸焼けして、ただれてしまうほどの甘い物だと誰よりも知っていた癖に彼女はそう言った。
「こんなことなら…!!」
私は怒りに任せて手の中に握られたそれを強く握りしめた、投げ出してしまおうと思った。彼女の代わりにこの怒りを全てぶつけてしまいたかった。
…なのに、どうしてか私の腕は高く振り上げられたまま動かなかった。いくら動かそうとしても、私の腕がかすかに震えるだけだった。
「どうして…」
自分が情けなくてしょうがなかった。こんなものにもう未練は残すわけにはいけないのに、そう頭では理解できているのにどうして手放せないのだろう。そんなに貴重なものでもないはずなのに。
私は自分の考えが正しいことを自分自身に証明するためにもう一度手を開いた。私の手の中で光る小さな指輪は血に濡れたせいか歪んだ私の像を映していた。
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