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「見つかったって逮捕されたんですか?」
「いや野毛山公園で首括ったらしい」
「自殺?」
「らしいね」
徳田は階段を駆け上がった。ドアをノックした。施錠が解かれた。洒落たえんじ色のブレザー姿の男が笑っていた。
「高田さん、見違えちゃった」
「おはようございます。宜しくお願いします」
「こちらこそ」
徳田は興信所のルールを教えた。そして山手の江利川峰子が依頼人である犬探しを高田に任せた。
「高田さんは元添乗員でしたね。客に対するリップサービスはお手のものでしょう」
「そうでもありませんが、人と話すのは嫌いじゃありません」
「それを封じてもらうことが肝心です。探偵はあまり人から好かれた職業じゃありません。探偵と明かして仕事する時と隠して仕事をするときの使い分けが必要です。今回の犬探しは後者です。懐いていた魚屋に直接聞いたら警戒されます。まず今日は牛坂下公園で魚屋から何か買ってください。晩の酒のあてにしましょう」
「それだけですか?」
「ええ、それだけです。犬のことは一切話さないこと、商品を見定めながら魚屋から感じたことを記憶して記録しておいてください。屋号と車の車種、ナンバー、これぐらいなら暗記出来ますか?これは録音機です。情報はこれに吹き込んでください」
徳田はラークの録音機を渡した。
「底をスライドするとスイッチがあります。録音時間は二十分ですから魚屋と対面する五分前にスイッチを入れてください」
「分かりました。その後は?」
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