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「ところでこのナイフはどうですか、悟君が登山ナイフを持ち出したと依頼された日にあなたから聞きましたがどうです?」
水島もナイフのことには気付いていなかった。写真をじっと見つめる。ナイフの柄は悟の手の中にある。
「似ています、柄は見えませんが折り畳みなんです。刃先は私のとよく似ています」
「鼠色のセーターで戻って来た時はこのナイフは持っていませんでしたよね?」
「ええ、だから私の部屋から別のナイフを取り出してこの通りです」
水島は掌の包帯を見つめて言った。すると誰がこのナイフを隠し持っていたんだろうか、やはりあの女しか思い当る節がない。
「それからこれを見てください。警察が遺書だと考えているものです」
「『お母さん御免なさい』」
徳田は読み上げて考えた。
「息子さんの字ですか?」
「はい、息子の筆跡です」
「息子さんは高校はほとんど不登校と聞きましたが残されたメモ書きか何かありますか?」
「残っておりません、あの子は漢字が書けないんです。母は書いても御免なんて漢字は到底無理なんです」
「誰かに手引きされて書いた?」
水島が頷いた。母親を絞め殺し、父親を斬り付けてまで出て行く。悟に取ってそれ以上に欲する何かがあるとすればそれは快楽しかない。悟と一緒にいた編み物をしていた女、確か毛糸の色は鼠色。あの編み物が悟の着ていたセーターだとすれば脱ぎ捨てたのは女の家。ここを飛び出して行った先はあの女の家しかない。
「分かりました。女を探ってみましょう。申し訳ないが料金が少し不足しますがいいでしょうか?」
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