都橋探偵事情『莫連』

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「もう私には何も残っていません。この家を売ってアパートでも探します」 「大袈裟な、そこまで必要ありませんよ。先日二万円いただいた、他に二万いただきたい。それだけです。早まった行動は慎むべきです。生意気言ってすいませんがまだあなたの人生は長い」  水島は頭を下げた。 「ひとつ確認しておきたいことがあります。もし悟君が他殺だとしたらどうします。警察に捜査の再開を願い出ますか?それとも・・・」 「こんな残虐な殺され方をしました。悟を殺した奴が憎い。悟の罪は母親殺しです。罪だけ滅ぼしたら二人で生活したかった。あんな子でも可愛い」  徳田も精神が不安定な悟を色仕掛けで追い込んだことが許せない。そっとしておけば親子間で解決した問題だったかもしれない。解決に至らなくとも親子で悩み苦しむべき問題だった。そのチャンスを奪った者がいる。その手掛かりはあの女。徳田は父親が刑務所行き覚悟で敵討ちをしたいのであれば協力してもいいと思った。 「水島さん、悟君が女性と知り合う機会は考えられますか?」  高校入学当初から不登校になり家に閉じ籠る生活。母親が一時しのぎにと用意するエロ本。それが刺激になり欲の塊になったのは間違いない。しかし家を出ずに女と知り合う機会がない。 「あの子が家を出ることなどありませんでした。一度母親に欲のはけ口を求めたことがあります。高一のときでした。私が厳しく折檻し止めました。それがトラウマになり私の前には顔を出さなくなりました」  女と知り合う機会はゼロと父親が断言した。 「すいません、もう一度悟君の部屋を拝見させてください。水島さん、すいませんが外のプロパンガスの前に立ってくれますか」  水島は怪訝な顔をしながらも徳田の指示に従った。徳田は二階に上がった。押し入れの山のように積まれたエロ本が黴臭い。窓際に立つ。徳田が訪れた時に悟がしていたように厚手のカーテンの下部を三角に捲る。やはりプロパンガスが二本と水道のメーターボックス。水島が出て来た。プロパンガスの前で上を見上げた。徳田はさっとカーテンを下ろした。 「水島さん、水道検針の紙を残していますか?」  水島は引き出しから領収証関係をテーブルに出して選別を始めた。 「ありました」   取り出したのは五年前のものだった。 「新しいのはないですか、この半年ぐらい以内の」 「ありました二月前のです」  徳田は受け取った。当時はまだ手書きの検針票である。西区と保土ヶ谷区管轄で使用料の下にサインがしてある。 「水島さんはカメラをお持ちですか?」 「はい、悟が中学生の頃までは登山をしていましたので撮っておりましたが」 「もし水道検針員、それからプロパンガスの交換が来たら二階の隙間から写真を撮ることは可能でしょうか?」 「ええ、タイミングさえ合えば問題ありません」 「くれぐれも見つからない様にお願いします。見られると非常に危険です」  徳田は注意して水島宅を後にした。  
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