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スリ集団が借りているアパートの大家は登戸に大きな一軒家を構えている。元は百姓で畑が開発に掛かった。鍬を捨て野良着を脱いで背広姿でオフィスに置物のように座っていれば金が転がり込んでくるようになった。夫婦は子息に不動産経営を任せ家賃収入で安定した生活を送っている。
「先日はありがとうございます。竹水建設の鈴木です」
「どうぞ」
家政婦が門扉を開けた。
「奥様がお待ちしております」
地面師の亀山と横山は奥へ通された。亀山はテーブルにフルーツ販売有名店で購入した高級メロンを差し出した。
「あらら、お気遣いありがとうございます。お父さん、メロンいただきましたよ」
老夫婦は笑って会釈した。
「坂出様こちらは東横銀行の添田営業課長です」
「東横銀行の添田と申します。宜しくお願いします」
横山が名刺を差し出した。この名刺は二枚しかない。
「これはこれは大手の建築屋さんと銀行さんがくっ付いてうちの土地も箔が付いたこと。溝の口辺りはまだまだこれからと思っていましたけどさすが大手さん早いですね」
亀山と横山は照れ隠しの表情。
「奥様、驚かないでくださいよ、二千万で話がつきました。決まり次第即お振込み、そのために東横さんをお連れした次第です」
二千万と言う数字にソファーでテレビを観ていた主人も振り向いた。
「二千万ならすぐ売却致します。もうあたし等も齢で管理するのも面倒臭い。尻手にあるアパートも鉄筋コンクリート造りにします。賃貸マンション七階建てで六十戸が入居します。その収入だけで充分です。そうだその建設を竹水さんにお願いしましょうかね」
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