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二人は大家宅を出た。そして一旦尻手のアジトに戻り大家夫人に成り済ました妙子婆さんとその秘書になり切った西川を伴いアテを付けてある三軒茶屋の不動産屋に向かった。
昼食後のコーヒータイムと合って喫茶樹里は満席だった。角の指定席で多田は新聞を読んでいた。並木に気付いた多田は新聞を畳む。新聞が団扇代わりになり充満している煙草の煙が一瞬消えた。その中に多田の顔が鮮明に受かんだ。「よう」と発したがすぐに煙に巻かれた。
「相変わらずすごいですね」
「慣れりゃどうってことないさ。ここの客は全員常連だ。煙草がなけりゃ生きていけない連中さ」
「いらっしゃい」
樹里のママが煙の中からぬっと現れた。
「あの人は?」
樹里ママは中西の姿が見えないので不満顔である。
「今日は別行動です。何か用向きがあれば伝えますが」
二人は樹里ママと中西の関係を知らない。
「そう、来ないんだ。何にする?」
愛想なく注文を取り奥に消えた。二人はママの不機嫌に嫌な予感を感じた。
「まさか、相棒のあのでかいの、ママを喰ったんじゃねえだろうな」
多田が並木に確認したが並木も聞いていない。
「まさか、あいつはそんなことする奴じゃありません。うちでは人望の厚い未来のエースです」
そう答えたが多田の予想が正解だと確信している。非常識な男が相棒と思われたくなかった。
「だよな、あいつは桁外れの男だとは予想していたが、警察と言うより人としての道理とか倫理とかから外れるようなことをするようじゃ刑事失格だしな。考え過ぎだな俺の、でも何でママ機嫌が悪いんだ」
並木は笑って誤魔化した。
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