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「大家に当たってみる価値はあるな、よし明日にでも俺が聞き込みに行って来よう」
コーヒーが運ばれた。
「あの人今度いつ来るの?」
樹里ママが訊いた。
「ママはあのでかいのが気に入ったようだね。ダメダメ、ああ見えてもまだ若いんだからまだ三十前だよな」
「今年二十八になります」
多田の振りに並木が答えた。
「そう、待ってるって伝えて」
樹里ママが並木にウインクした。並木は照れて熱いコーヒーを啜った。
「多田さんはどうでした?」
「女が気になった。東神奈川駅で三度見た。まあ連日同じ電車で通勤しているからほとんどが同じ顔ぶれなんだけどな、それぞれが気にしない、毎日顔を合わせている他人の関係だ。だからその女が毎日同じ時刻に居ても何ら不思議はないんだがな。ただその女の近くに若い男がいる。それも同じ位置関係で二日続けてだ」
「どんな女ですか?東神奈川で乗り込み大口駅で降りた背の高い女がいました。その女は勤め人じゃない感じがしました。どうしてあの混雑時に一駅だけ利用するのか不思議です。先日菊名駅で聞き込みした大手不動産の男は大口で降りた藤の籠を持ったぽっちゃりした三十過ぎの女を見たと話していました。女は違えどあの混雑時に一駅だけ利用することで一致しています。その関連性も探る必要があるかと思います。無駄足になるかもしれませんが潰しておきたいんです」
多田は頷いた。消去法を徹底している並木は無駄と知りながらも野良犬にたかるダニを一匹一匹爪で潰すように取り除いていく。
「俺の気になった女は白いスカートを穿いていた。シャツも上着も白っぽい、一見勤め人のように見える。それがいい女だ」
並木は尻手駅で尾行中に疝痛で介抱した女がやはり白い服装のいい女だった。そして今朝路地から出てくるのを見掛けた。白い服装の女は山ほどいる。だけど多田が気に掛かる女と言った。その女に似ているのが気になった。
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