都橋探偵事情『莫連』

11/281
前へ
/281ページ
次へ
「先生は最低三日の休養が必要だって」 「それだけ。もっとゆっくりと休養していた方がいいと思う」  実家に連れて行かれれば義父がいる。産後の肥立ちまでは預かると義母が断言している。病院にいれば日に何度でも会えると思った。 「四日目に退院しましょう。後はうちでゆっくり休養すればいいわ。もしあれならずーっといてもいいし」  義母が赤子を抱いて言った。まるで自分のこのようにあやしている。徳田は早く道子の胸に収めて欲しかった。生まれたばかりの小鳥のように初めて見た動物に馴れてしまう、そんな気がした。 「お義母さん、道子に返さないと」 「ベロベロバー」  徳田の言うことは知らん振り。赤子が反応した。 「聞こえるんですか?」 「耳はいいのよ、探偵譲りかもしれない」  義母が冷かす。徳田は道子の枕元に寄った。 「お義母さんは時々来るの?」  小声で訊いた。 「一日中いるわ。お父さんも」  徳田はがっかりした。 「こんな恵まれた環境はないでしょ」  道子に言われてその通りだと反省した。道子に両親がいなければうちに連れて帰る。仕事も出来ない。そもそもこの出産費用も道子の懐、イコール実家から出ている。おむつもそうだ、ゆりかご、ベビーベッド、乳母車、三歳ぐらいまでの全てが揃っている。この両親あってこの子の幸せである。 「お義母さん道子とこの子をお願いしします」  徳田は義母に頭を下げた。 「任せなさい、全部」  徳田は全部と言う言葉が気になった。道子に「じゃあ」と言うと顔の横で小さく手を振った。
/281ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加