都橋探偵事情『莫連』

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「西、言い過ぎだ、失礼しました。分かりました。戸部西署の意向に沿ってまとめます。西行くぞ。これお借りします」  布川は鑑識の報告書を掴んでむくれた中西を強引に連れ出した。 「布川さん、どう考えてもおかしいでしょ、酔っぱらっててめえの首絞められますか」 「ちょっと待て、布川は報告書を見ながら中西の話を止めた。ズボンのベルト他による頸部圧迫とある」 「それがどうしました?」 「他ってなんだ?」  二入はとんぼ返りして鑑識課に飛び込んだ。 「この報告書の他ってなんですか?ズボンのベルトと断定出来ないことですか?」  担当した鑑識は頭を掻いて笑った。 「もしかしたら他で首を絞めているかもしれない。絞め痕が細いので初めはベルトの角だと思いましたがどうも違う素材で一度自殺を計った。死にきれず再度ベルトにした」  それを聞いて二人は顔を見合わせた。 「違う素材ってなんですか?」 「断定は出来ませんが糸、毛糸の類じゃないでしょうか」  真金町の安宿で発見された男は毛糸で絞殺されていた。中西は糸屋の女将に撚ってもらった蛇口の付いた毛糸を取り出した。 「もしかしてこんなものじゃないでしょうか?」  布川も初めて見た。 「恐らくそんなもんでしょう」  鑑識も毛糸痕が採取されていないので断定は出来ない。 「それから足跡が該者と平行に進んでいる。ほぼ両側から抱き付いたように残っているようですが男のゲソとしては非常に小さい、女の可能性はどうでしょう?」
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