都橋探偵事情『莫連』

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「大いにあります。該者の体重は61キロ、女一人で泥酔状態の男を担ぐのは無理でしょうが二人なら両側から腕を肩に掛けさせれば移動することが出来ます」 「仮に女としてその足跡は同じところを戻ったんですか?」 「それが現場で消えています。その代わり別の足跡が左右に分かれて水道道まであります。靴底が平らな、スリッパのようなものじゃないでしょうか」 「二つとも?それで水道道で消えてると言うことは?」 「恐らくそこで靴に履き替えたかもしれない」  中西は要所要所をメモしている。 「止めに刺したと見られているナイフですが写真で構いません、見せてください」  中西はずっと居合を続けているので刃物にはそこそこ詳しい。 「折り畳み式ですねやっぱり、珍しい物じゃない。でも該者は高校生の時から不登校、購入するチャンスはありますかね?それとも家出してから購入したのか?まさか親が彼に刃物を与えるわけがない」  中西が疑問に感じた。 「そう言えば水島悟が母親を絞殺して逃げる際に父親の掌をナイフで傷付けた、そのナイフはありますか?」  布川の催促に鑑識は写真を用意した。中西が二枚の写真を見比べている。 「どちらもブローニング制です。小型で登山やキャンプ用です」 「とすると父親の物か?」  二人は鑑識に礼を言って戸部西署を出た。 「布川さん、水島の父親が言っていた通りこれ間違いなく他殺ですね。それももし凶器が糸なら真金町と絡んでくる。これで堂々とやれるじゃないですか」  中西は俄然やる気になってきた。 「西、お前神奈川西署に行って、菊名で発見された刺殺体の凶器を聞いてこい。現物は出ていないが大体のとこは検討つくだろう」 「布川さんは水島悟が菊名の一件に絡んでいると睨んでる?」 「いや気になることは潰しておきたいだけだ。見当違いならそれでもいい、くすぶっているものを脳味噌から排除したい」  中西は神奈川西署に、布川は水島宅に向かった。  
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