都橋探偵事情『莫連』

122/281
前へ
/281ページ
次へ
「今晩は」 「今晩は」  先に挨拶したのは地面師の亀山だった。並木も会釈した。 「すいませんがこの辺りに焼き鳥屋はなぁか?こっちへ来たばっかりで右も左も分からんので」  亀山は広島弁で訊いた。擦れ違いざまに並木を呼び止めた。 「さあ私も詳しくありませんので」 「そうか、ウチは205の加藤ゆいますけぇねぇ。ご挨拶遅れまして申し訳なぁですぁ。短い間じゃが宜しゅうお願いするんじゃ。失礼じゃけどお宅様は?後でご挨拶に寄らせてもらいますけぇねぇ」 「私は102の佐々木の友人です、こちらこそよろしくお願いします」  並木はつられて部屋番号を言ったことを後悔した。佐々木は金で転ぶ、握らされて白状するかもしれない。  水島悟が自殺に使用したとみられる折り畳み登山ナイフと菊名駅で刺殺体で発見された男の凶器が『同一ではないと断定出来ない』と神奈川西署の担当からの見解である。 「刃型も長さも近いと思います。数カ所、正確には骨に当たり差し込めない傷も含めて六ケ所、そのうちの一カ所が致命傷です。相手が押し当てられていないとあそこまで深く刺し込めないでしょう」 「相手が壁か何かに当てられた状態ですか?」 「はい、それに近い状態でしょう」 「刺した血痕は刃に残るでしょうか?」 「掌に付着したペンキもよく洗えば落ちます、洗い残しは反映される。戸部西署にしっかりと鑑識していただくしかない。菊名の担当に伝えておきます」  中西は礼を言って署を出た。          
/281ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加