都橋探偵事情『莫連』

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 布川は水島宅に来ていた。徳田が帰って二時間後である。 「水島さん、何か隠していることはありませんか?」  布川はいきなり質問した。 「何ですかいきなり、妻と子を同時に亡くした惨めな男をどん底まで突き落とそうと言うのですか」  この質問で隠し事を悟られて慌てると読んだ布川だが水島の思わぬ反応に失敗したと反省した。 「いや申し訳ない、私の思慮不足です。この通りです」  ここは早いうちに謝罪して振出しに戻すことが先決。強硬にになればなるほど惨めな男を演じられ口を閉ざされる。あまりしつこいと戸部西署に通報され𠮟りを受けることになる。 「まあどうぞお上がりください」  布川はホッとした。 「実はご子息が証拠品から他殺もあり得る。それをお伝えに参りました」 「だから先日も言ったでしょ、あの子は自殺などしないって、親である私にしか分かりませんと。それで証拠品とは何ですか?」 「ご子息が駄目押しに使用されたと見られている喉に刺したナイフです。あのナイフをご存知ありませんか?戸部署は自殺で進めていますが私達はほぼ他殺の線で考えています。水島さん、ご子息の敵討ちしようじゃありませんか」  大袈裟に伝えて水島の口を割らせたい。 「何とも言えませんがそうかもしれません」  水島はとぼけた。 「そうかもとはご自身の物ということですか?水島さんの掌の傷、そしてご子息が持ち歩いていたナイフ、いずれもブローニング制の物です。購入先に連絡を取らせてもらいますよ」  布川もここは譲れない。違うなら曖昧な返事はしない、自分のナイフと分かっているがそれを認めると世間に与える印象が悪い。逃亡犯はナイフを所持していた、それを隠していたと見られてしまう。
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