都橋探偵事情『莫連』

124/281
前へ
/281ページ
次へ
「初めから他殺で追ってくれていればもう少し展開も変わっていたんじゃないでしょうか。あなた方は初めから自殺と断定していた。私の意見など聞く耳も持たないで」  水島の言うことは理に適っている。一日のロスは大きい。 「そこは申し訳ないと反省しています。息子が親を殺めた、しかし反省し後を追い命を絶った。そんな美談でまとめようとしていた感はあります。でもそれは間違いです。それに気が付いてこうして協力のお願いに来ています。私の相棒はハナから自殺じゃ無理があると確信していました。今はその通りだと思います」 「私の折り畳みナイフを悟が持ち出した、間違いありません」  繋がった。そしてこのナイフが菊名の事件と絡んでいるかもしれない。そのことを水島に伝えるのは心苦しい、その役は中西に任せることにした。 「奥様、警察の方がお見えになっています」  家政婦が坂出夫人に伝えた。 「警察?なんでしょうか、お通ししてください」  神奈川西署の多田刑事は名刹の庭園にも劣らない庭を眺めながら玄関まで家政婦の後に続いた。 「あの池の石は立派ですねえ」  多田が挨拶代わりに坂出夫人に言った。 「はい、ここのボーリング工事をしたときに出た石でございます。石は生きていると植木屋さんに言われたものですからそのまま庭に利用させていただいています。毎日見ていると何となく生きていると信じるようになりました」  坂出夫人が説明した。家政婦が東屋に茶を用意した。 「羨ましい、私どもの憧れの生活空間ですよ」 「私達もずっと百姓をしておりました。開発に掛かってこうなりました。それが良かったのか悪かったのか、召される時に結果が出るでしょう」  
/281ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加