都橋探偵事情『莫連』

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「どちらですか?」 「私です、徳田です」 「お帰りなさい、支度してあります」 「忘れてました、酒を買ってきます」  徳田はすっかり忘れていた。 「そう予想して一升用意して置きました。料理に一合使っちゃいましたけどね。すぐやりますか?」 「この匂い嗅いだらそれしかないでしょう」  高田は鯛の刺身とあら炊き、鰯の丸々太った塩焼きをテーブルに並べた。 「魚屋に指南された通りに造りましたけどお口に合うかどうか」  徳田はあら炊きを啜った。 「最高ですよ」  食べることに夢中になり会話もせずに一升を空けた。 「それで魚屋はどうでした?何か感じることがありましたか?」 「それがあまりイメージ出来ませんでした」 「そうですか、慌てることはありませんよ」 「屋号と車のナンバーは録音しメモに残しておきました」 「上出来ですよ」  高田は物足りないと不安だったが徳田の懐の深さに助けられた。 「それで明日はどうしたらいいでしょうか?」 「明日は魚屋が店仕舞いの頃に公園に行ってください。そしてタクシーに屋号を言って店まで走らせてください」 「分かりました、それから」 「そうですね、もし魚屋の近くに喫茶店や定食屋があれば飲みながら一時間ほど観察してください。くれぐれも話し掛けない様にして下さいね」 「分かりました。明日の晩酌はどうします」 「明日は野暮用があります、高田さん一人でやってください」  徳田は自宅に戻った。          
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