都橋探偵事情『莫連』

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 朝一から布川と中西は課長室に呼ばれていた。 「何ですかね?」  中西がアルコールとニンニクの交じり合った息を吹きかけた。 「どうやったらそういう臭いになるんだ。内臓の中で噴火してんじゃないか?」 「分かりました?今晩連れて行きますよ」  全く分かっていない。課長室には丹羽課長と榊刑事がいた。 「まあ座りなさい」  座ると言うことは所用の言い付けではない、話は長くなる合図である。 「君等は警察組織と言うものを心得ておらんようだな」  県警から出向している榊刑事が口火を切った。恐らく戸部西署から二人が水島悟の死亡を他殺に結び付けて捜査していることが気に入らないようである。 「警察の一員として日頃から心掛けて活動していますが」  中西が喋ると口臭で部屋の空気が汚染された。課長が溜まらず窓を開けた。 「お前、何食ってんだ?」 「あんたは何を食ってんだ?」   榊の問いに中西が逆に問う。剣吞な雰囲気を感じた布川が中西を制した。 「察しているとは思うが戸部西は自殺で進めている。それを覆す決定的な証拠がない限り騒ぎだてするなと県警部長からのお達しだ。もう私がお前達に意見を求める段階にない」  丹羽課長は自分の手に負えないと言い及んだ。 「君達は自分の持ち場をほっといて他所の仕事まで受け持つほど優秀じゃないだろうしその余裕もないはずだ」  榊が付け足した。 「だったらあんたが手伝えばいいじゃないか、偉そうに署で一日潰していないで、現場に足運んで実際に見て考えて調べてから言ってくださいよ」  中西が反論すると榊が中西の胸倉を捩じ上げた。
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