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「君等に訊きたいことがある。殺された男は札入れを持っていたんだな?」
「はい、その札入れに盗難届が出ていまして照合しました。本人はすられたか落としたかよく覚えていませんでしたが、ラッシュ時に東神奈川駅で横浜線に乗り換えていました。札入れがないのに気付いたのは大口の駅でした。たまに叩いて確認する癖、誰にでもあるでしょう、それで気が付いたそうです」
並木が説明した。
「絞殺だったな、札だけが抜かれていたんだな。とすると金目当ての犯行にしちゃやることがえげつないな」
「いえ、札入れに被害はありません。本人に確認しました」
金目当ての犯行じゃないことを並木が多田に説明した。
「宿の女将は四十前の女と一緒だったと。女が出る時に「ゆっくり寝かせてやって」と宿代とは別に二千円置いて言ったそうです。だから朝の十時まで起こさずにいたので発見が遅れました。女がホシだとすると宿を出る晩の十時には既に該者は死んでいたことになります」
並木が付け足した。
「二千円のチップは気前がいいな」
多田は二千円のチップは多過ぎると思った。
「札入れの現金は七千円です。他に運転免許証と名刺、被害はありません。スリ被害者の年齢は三十四、極普通の勤め人です」
並木の話に中西が頷いている。
「そうか、金じゃなけりゃ殺した目的はなんだ」
多田が考え込んだ。
「性の不一致、そりゃないな」
中西が否定したが多田は笑っていた。
「絞殺の得物は?」
「まだはっきりしていませんが毛糸じゃないかと鑑識の見立てです」
「毛糸?そんなもん持ち歩いているか四十近いパンパンがいるか?」
多田は娼婦じゃないような気がした。
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