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「いや別に大したことじゃない。いい天気だな」
「馬鹿じゃないの」
日出子に馬鹿にされても腹が立たない。それに日出子には隠しておきたい。三年前にやくざに腹を蹴られ子の産めない身体にされた。絶対に秘密にしておこうと徳田は気を引き締めた。
徳田が道子のお産に立ち会えなかったのは依頼人と10:00.に待ち合わせをしていたからである。「どうぞどうぞ」と道子の父は喜んでいた。道子との交際そのものに反対していた義父。しかし入籍する前に懐妊した。一度堕胎経験のある道子はどうしても授かりものを産みたかった。両親も産ませてやりたかった。これで二人の婚姻を認めざるを得なくなった。
依頼に訪れたのは中年の夫婦だった。
「どうぞ」
二人共難しい顔をしている。
「どう言ったご依頼でしょうか?」
「長男を捜して欲しいのですが?」
「ご長男、連絡が取れないのですか?」
「はい、十日ほど前からなんです」
「分かりました。先ずお断りしておきますが依頼が必ず成功するとは限りません。手を尽くします。失礼ですがご予算は?」
夫婦は顔を見合わせた。どうみても一流企業に勤めているようには感じない。旦那は工場勤めか建設業、夫人はパート、共稼ぎ夫婦と徳田は読んだ。勉強してもいいが赤字じゃ手を出せない。
「五万円だとどれくらい調査していただけるでしょうか?」
悪くない、大卒初任給が三万前後のご時世である。
「十日間徹底的に調査します。その時点での進捗で継続か否かご判断ください」
長男の最近の写真他情報を事こまめにメモする。
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