都橋探偵事情『莫連』

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 中西と並木は真金町に来ていた。この辺りは昭和三十三年まで遊郭だった。永真遊郭、その名残はまだあり、店そのものは消えたが組織はまだ残っていた。 「女将さん悪いね、部屋見せてくれる」  中西が鍵を借りて部屋に上がる。 「足元に気を付けろ」  並木が言った。男は玄関を入りすぐのところに倒れていた。 「野郎何もせずに絞殺されたんだな」 「可哀そうに、せめて今生の一発嵌めさせてもらえば悔いの残りも違うのにな」  並木は畳に向けて手を合わせた。 「道具が毛糸らしい、色は鼠色だとよ、鑑識が断定した」 「毛糸なんて首絞めたら逆に切れやしねえか」  中西が疑問に思う。 「お前の首じゃ切れちゃうかもな、でもそれが一本じゃないらしい。絞め痕が太いと言ってた」  並木が鑑識からの情報を流す。 「それじゃ何本かまとめてか」 「うちのばあちゃんが色違いの毛糸を撚って紐にしてくれた。お守りが落ちないように首から掛けてくれたことがあった」  並木が子供時代を想い出して言った。 「可愛くないよちんちくりんが」  中西が並木のおセンチを破壊した。 「あの名刺をどう思う?一枚ずつ二十枚ほど入っていた」 「身分照会でもされたら使うつもりだろ、まさか繋がりはないと思うがな」 「確認だけでもしてみるか」  並木が言った。 「どうする、一杯やるか?」  これ以上お手上げだと中西が酒を誘った。 「布川さんに土産持って行きたいな」  並木は有力な情報のひとつも布川に伝えたかった。
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