都橋探偵事情『莫連』

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 早朝なら義父はいないだろうと7:30.に行くと産婦人科はまだ開いていない。それに義母が来ていた。 「あら英二さん、早いわね。八時にならなければ開かないわよ」 「お義母さんも早いですね。近いんだから時間に合わせてくればいいじゃないですか、花冷えして風邪でもひかれては困ります」  家から徒歩でも二十分、ゆっくりと昼頃にでもくればいいじゃないかと内心思ったが愛想を振りまいた。 「英二さんお仕事は?」 「はい、道子に会ってそれから」 「そう、ところで英二さん、あの子の名前、道子は『英一』に決めてるって一点張りなのよ。あなたから考え直すよう言ってくれない」  始まった。名前のことは道子と二人で決めていた。男なら『英一』女なら『桜子』これは道子の強い希望である。二番より一番、父親の上を行くように英一。そして道子は桜をこよなく愛している。桜のように毎年きれいに咲くようにと思いを込めた。 「お父さんがね、姓名判断で調べたら昭一が一番合うらしいの。もう一度考え直してくれない。あなたから言えば道子も了承するから、ね、お願い」  義父は昭二である。自分の一文字を入れることに拘っているのだ。行く行くは画廊を継がせようという魂胆がみえみえである。 「お義父さんは自宅ですか?」  話をそらした。 「もう来ると思うわ」  まずい、義父も来る。わざとらしく時計を見た。 「お義母さん、待ち合わせがあるので昼頃来ると道子に伝えてください、それじゃ」 「英二さん」  義母が呼び止めたが振り返らずに手を上げた。
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