都橋探偵事情『莫連』

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目的は一体何だろう。見送りと言う線は消していい。もしかした女が声を掛けた男に用があった。偶然昔馴染みに再会した、それにしては齢の差があるし表情に笑みはなかった。女の表情を想い出す。水島悟と二人で並んで座っていた時は笑顔だった。徳田はじっと考えていた。気付いたら通勤ラッシュは終えていた。  西口交番に挨拶して内幸町に向かった。階段を下りると薄暗い、開店しているのかどうか分からない。ドアを開けると排気が飛び出してきた。入り口から見えない奥の三角の席に神奈川西署の多田刑事がいた。 「換気が悪いのが売りの店だから」  多田が自分の呼出煙を手で払いながら言った。 「これ、消防法とか問題ないんですかね」  中西も並木も愛煙家だがこの煙幕には驚いている。 「いらっしゃい」  寝起きで瞼が腫れているママが灰皿だけ持って来た。 「火は気を付けてね、燃えれば上のピザ屋まで全部燃えちゃうから。何にする?」  二人は多田と同じ物を注文した。他のものに危険を感じた。 「腹はどうだ?朝飯は食ったのか、ピラフはまあまあ食えるぞ」  多田が二人に薦めた。並木は断った。 「じゃ並木の分まで大盛でお願いします」  多田が中西の注文をママに伝えた。薄暗いカウンターの中でママが頷いた。冷蔵庫から何かを取り出して臭いを嗅いでいる。「おえぅ」吐き気が聞こえた。 「新ネタだ。昨日菊名の駅で殺しがあったのは知ってんだろ?該者はスリじゃないかと思う」  二人が顔を見合わせて驚いている。 「まだ確証が得られていないからオフレコだ」 「どうしてスリだと?」  中西が問う。
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