都橋探偵事情『莫連』

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「ママ~」 「あんた~」  振動は徐々に小さくなり皿のカチカチも消えた。その時客が来た。 「いらっしゃ~い」  ママが何もなかったかのようにパンツずり上げてカウンターに戻った。  二人は菊名駅に来ていた。ホーム中央にはまだビニールシートが張られていた。横浜線は先月に東神奈川~新横浜駅間で複線化したばかりである。 「便利になりましたね」 「ああ、それに何より安全になった」  二入は敷設されたばかりのレールを見ていた。 「俺はスリ専門でもう二十年になる、殺しのことはさっぱり分からん。君を誘ったのは意見が聞きたいからだ」 「俺もまだ駆け出しで人に意見するほど徳がありません」 「それは承知している。君自身の考えを聞きたいんだ」  ベテランでは思い付かない、並木の誠実な捜査から何かが見えてきそうな気がした。 「はい、力不足ですが」  並木が一礼した。 「該者はここにうつ伏せに倒れていた。実は倒れる時に反転した、その血糊が証明している」 「それじゃドアから押し出されたのは後ろ向きですか?」 「そう思う。ドアガラスに血がべっとりとついている」 「刺し傷は背からですよね。と言うことは車内で反転した。それとも該者の後ろに誰かいた」 「並木君、君は車内で刺されたと思うかね?」  並木は考えた。ゼロじゃないがいくら満員でも異変に気付く乗客が居ても不思議はない。  
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