都橋探偵事情『莫連』

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「ああフェルト化して駄目かも」  水島悟の水色のセーターを裏返しにした。この女は相馬紀子三十三歳中肉中背、ややぽっちゃりとした顔立ちである。 「紀子さん、僕しっかりやったよね」 「ええ、あなたはしっかりやったわ、ご褒美欲しいの?」 「欲しい、ご褒美欲しいよ紀子さん」  悟は紀子に抱き付く。 「駄目よまだ、全部うまくいったらお姉さんの身体全部上げるから。それまではこれで我慢」   二回擦り上げただけで悟は紀子の手の中で果てた。それを二回、それでも悟は満足していた。悟は高校生活途中から不登校になり二十歳まで家にこもった。母親に暴力を振うまでに荒れてしまった。紀子は市役所の水道メーター検針員をしてた。悟は紀子が検針に来るたびに自室の窓から覗き見ていた。紀子もそれに気付いていた。検針する時の姿勢を故意に厭らしく見せた。悟は紀子の仕草で自慰をしていた。この頃紀子は新婚だった。幸せの絶頂で悟をからかうのも楽しかった。そのことを夫に知らせるとさらに興奮する。子を孕みさあ臨月の日、自宅で夫を待っていた紀子は苦しくて外出出来ずに自宅で産み落とした。紀子は苦しくて意識が朦朧としていた。ぐったりとした子は生まれて間もなく死んでしまった。紀子の夫忠明は帰宅途中にラッシュ時にスリに合う。札入れを掏られたがすぐに気が付く。「泥棒」と叫んで隣の若い女の手を掴んだ。 「キャー、痴漢、助けて~」  女はその時既にスカートのホックを外していた。周辺の男達は忠明を取り押さえた。 「違う、俺は被害者だ」  次の駅で待ち受けていた警官に現行犯逮捕された。その時女は既にいなかった。 「被害者は?」  警官の問いに忠明を取り押さえた男の一人が前に出た。 「スカートが下がっていた、よっぽど恥ずかしかったんでしょ」  この一言で忠明は連行された。  
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