都橋探偵事情『莫連』

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 尻手のアジトでは大騒ぎになっていた。スリ集団のグルがまた一人刺殺された。 「姉御、やっぱり仙太です。腰から背中に数カ所刺されています。発見されたのは菊名駅です」  スリ集団の女ボス湯山玲子に囁いたのはグルの大山である。仙太は大山とコンビである。仙太が『買い手』で大山が『おけら』買い手はスリ担当、おけらは補助薬。仙太は見事に掏り大山の鞄に挿し込んだ。 「仙太の野郎、下り横浜線に乗り込みました。そこまでは見ていました。そのままここに戻るわけですけど戻らねえ。新聞見たらこの通りです」  大山はべそを掻いて新聞を玲子に差し出した。 「泣くんじゃないよみっともないね、死んじまったもんは諦めるんだ。広島に帰ったら二郎と仙太と二人を送ってやろうや」  玲子は未成年の大山を慰めた。 「番頭さん、和美が戻ってたら呼んで来てくれないかい」  番頭の亀山は頷いた。 「大山いいかい、和美はおけらを失った。お前は買い手を無くした、二人共グルを無くした、明日から俄かグルだよ」  和美が入って来た。和美は二郎と二人で買い手を行いおけらの三郎に渡していた。 「和美座りな」  和美は気の強い女で広島の孤児院でも男相手に喧嘩しても弱音を吐かない。 「二郎が殺されて今度は仙太かい。女にうつつを抜かしてるからさ。お愉しみの前に殺されちゃ世話ないね」 「止めなさい和美、仲間を悪く言うじゃないよ。みんな子供達のためじゃないか。運が悪いんだ。それで明日から大山をおけらにしな」 「こんなガキじゃ足が付いちゃうよ姉御」 「言われた通りにするんだよ。ガキったって二つしか違わないじゃないか。弟と思って仕込んでやんな。それから荒っぽいことはご法度だよ。どうも『お大師さん』が付いているようだ」  お大師とは刑事を指す。
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