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「お大師が?」
和美が驚くと番頭の亀山が頷いた。
「ああ、感じるんだ。明日の朝夕やって様子見だ」
「それじゃ箱は辞めるのかい?」
和美は効率のいい箱師に拘っている。箱師とは乗り物でのスリを指す。ちなみに人込みの商店街や店内でのスリを平場師と分けている。
「実はここの大家が溝の口に大きな不動産を持っている。今、三児が調べてる最中だ」
亀山は地面師で荒稼ぎして一旦広島に戻る算段をしていた。グルが二人殺され、運が向いていないと判断した。
「番頭さん、地面は地面でじっくり進めてもらいましょう。あたし等はもう少し箱で頑張ります。二人やられた、まさか狙われたとは思えないが偶然にしちゃタイミングが良過ぎるからね。みんなに知らせておくれ、くれぐれも用心するようにね、特に和美、荒いことしちゃ許さないよ、グルの命が掛かっているからね」
和美はふて腐りながらも頷いた。
昼に産婦人科に戻る。そっと病室を覗くと道子一人だった。我が子が道子の乳を咥えていた。徳田は見ちゃいけない女の秘密のような気がした。
「これが恥ずかしいと育てられないよ」
道子が徳田の気持ちを察した。
「なんか不思議だなあ」
「何が?」
「何がって、全てだよ。道子の身体から英一が生まれることが信じられない。そしてそうやって君のおっぱいを咥えている。神様ってすげえなあって改めて感心した」
「抱く?」
「いや、こうして見ていたい」
徳田はこんな幸せが現実であることに感謝した。守らなければならない命が一つ増えた。
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