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「お義母さんがね」
「名前のことでしょ、あたしからお父さんに諦めるよう説得するから心配しないで」
道子は徳田の不安を取り除きたかった。
「ただね、あなたのことが心配なの。この子を泣かさないでね」
道子が徳田を見つめた。探偵辞めて画廊の主人になろうか。二人を見つめていると気が弱くなる。それが一番安心かもしれない。だけど俺に画廊の主人が務まるだろうか、務まらずに投げ出せばそれこそ二人を不幸にする。
「道子、俺頑張るよ。二人をしっかりと食わせてやるから。道子のおっぱいがいっぱい出るよう美味いもんをさ、ビフテキとかすき焼きとか、たくさん食ってさ、おっぱいいっぱい、洒落じゃないけど飲ませて上げてくれ」
「無理しないでね」
道子が念を押した。昼一に義母が戻ると言うので徳田は事務所に戻った。ポストにメモ書きが入っている。電話番号が書いてある。
「もしもし、都橋興信所ですが」
「初めまして、わたくし柴田と申します。犬を探して欲しいのですがお宅様にそう言ったことをお願い出来るでしょうか」
徳田は吹き出しそうになった。
「申し訳ありませんが人捜しで間に合っています」
徳田は電話を切った。まさか犬探しをしているのを馴染みのやくざにでも知られたら一生笑いもんにされる。
「探偵いるか?」
声で日出子と分かる。
「入るか?」
「男所帯にレディが入れるか」
二入で手摺に凭れた。ラークを勧めると一本咥えて火を催促した。
「引き潮だな」
「引き潮がいい。上げ潮は気持ち悪い」
日出子が唾を吐き捨てた。
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