都橋探偵事情『莫連』

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「こちらがあたしの弟。悟君」 「あら可愛いわね、刈り上げがいいじゃない」  瑞恵に煽てられ頭を掻いているのは水島悟である。小さいリビングに死んだ亭主と息子と三人がピースをした写真が掛けられていた。 「息子さんは?」 「今年で中学生になるわ」 「たまに会うの?」 「月一ね、実家は来ないで欲しいみたい。私のことを忘れて欲しいようね」 「寂しいわね」 「息子にはその方が幸せ、夫の実家は事業をしてるからいずれ重要なポストに座らせる気」  瑞恵は夫を失いその上に子供も取られる。紀子はその悔しさがよく理解出来る。瑞恵が大きなアルバムを広げた。そこには新聞の切り抜きが貼ってある。三人が殺した二件の若い男の死亡記事である。スリとは記されていない。 「あの女かしら?」 「少し若過ぎるような気がするけど」 「そうね、他にもいるのかしら」 「仲間をやって孤立させてあげるわ、苦しみを味わせてやる」  瑞恵が写真を見て誓った。 「悟君は学生?」 「違います」  瑞恵の質問に答えた。 「彼とはね不思議な関係なの、ねーっ」  紀子が悟を冷やかした。悟は顔を真っ赤にして頭を掻いている。 「聞きたい、教えて」  瑞恵がねだった。 「いいわね悟君。あのね、あたしが悟君ちの水道検針しているとね、二階から覗いていたの。ねえそうだよねー」  悟は照れ笑いをしている。
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