都橋探偵事情『莫連』

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「どうして籠が藤だとはっきり言えるんですか?」 「大口駅は反対がのドアが開く、それに乗降客は少なくホームは比較的空いていますからね」   並木は人相を聞き取ってメモをした。小柄でポチャッとした三十前後の割といい女、そう記憶しているが他の駅で見た光景と重なって定かじゃないとのおまけつきである。ただ藤の籠だけは目に焼き付いていて確かだと言った。並木は真金町で殺害された若い男が携帯していた名刺を出した。 「この中にあなたの知人また商売相手はいませんかね」  男は一枚ずつ手に取り確認した。 「大手ばかりですね、私に付き合いはありません」  男は笑って言った。多田は礼を言って男を帰した。 「毎日こうやって一人ずつ掴まえて聞き取りしてたんじゃ年越しちゃうな」  多田が効率の悪さを笑った。 「その買い物籠の女が気になりますね、そんなラッシュ時に買い物に行きますか、それも一駅で降りた」  並木の読みに多田も頷いた。 「並木、それはお前の勘か?確かにゼロじゃないだろうがキリがなくなるぞ。多田さんの言う通りだ」  中西が一旦頭から切り離すことを勧めた。 「俺、明日またあの電車に乗ります。当たり付けて聞き取ります。お願いします、やらせてください」  並木が多田に懇願した。 「俺は構わないがそっちにもそっちの仕事があるだろ」  多田としてはすぐにでも受け入れたいが面倒な手続きが必要となる。 「並木、お前の勘でいい、何を感じた?」   中西は並木の勘所が知りたかった。 「真金町の刺殺犯と様相が一致すること、それと藤の買い物籠だ」 「籠がどうした?」 「うちのおばあちゃんはいつも毛糸玉を藤の籠に入れて持ち歩いていた」  
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