都橋探偵事情『莫連』

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「最後にじゃれたのはその日ですか」 「ええ」  サングラスを掛けているのは表情を隠すためだろうと徳田は読んだ。 「失礼ですけどどなたかが連れて行ったとは考えられませんか、例えばお客様に懐いてしまったとか?」 「ないわ」  口調が荒くなった。 「逃げだしたのよあの子」 「逃げ出したとは?」 「所長さん探すの探さないの?あたし仕事があるの」  逃げ出したと言う表現は犬にとって堪らない嫌なことがあるか、好奇心で表に飛び出して誰かに拾われてしまったか。徳田の質問は峰子の苛立ちに繋がった。 「勿論受けさせていただきます。愛犬の名前は?」 「フランク」 「渋い名前ですね」  峰子が立ち上がり封筒を置いた。 「十万あるわ、生きて連れて来たらもう十万渡すわ」  俄然やる気が出て来た。連れて行かれたのではなければそれほど遠くには行かないだろう。 「首輪はありますよね、どんな感じですか?」 「ピンクの細いの、名前が書いてある」 「フランクですか?」 「そう、フランクから峰子へと」  プレゼントされた犬のようだ。徳田は封筒をコートの内ポケットに仕舞い立ち上がった。 「早速掛からせていただきます。一週間お時間をいただきます。それで打ち切りますが宜しいでしょうか?」
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