都橋探偵事情『莫連』

45/281
前へ
/281ページ
次へ
「延長も出来るの?」 「はい勿論です」  若い男に門扉まで送られた。 「すいません、あのご婦人は女優さん?」 「多分」  若い二枚目は笑って答えた。  伊勢佐木中央署の布川等三人は真金町の殺人現場に来ていた。 「布川さん、お願いがあります」  並木が言った。 「なんだ?」 「神奈川西署の多田刑事に捜査協力してもいいでしょうか?」 「どういうことだ?」  捜査協力には課長の許可がいる。勝手に動くと規則違反である。 「ここの該者と一昨日刺殺され菊名駅で発見された該者に繋がりがあるんじゃないかと思います」 「俺もそう思います。夕方の二時間ぐらいです。二つの事件を切り離すと余計混迷します。セットで考えないと見失いそうな気がします」  中西が代弁した。 「共通点は?」 「先ず自分の身分を明かす物が見当たりません、それは名刺も含めてです。人の名刺は二十枚もあるのに自分の名刺がありません、そしてその名刺は一度や二度は聞いたことのある大手会社のものです」 「名刺は営業職に取って仕事量を証明するものだ、自分の名刺が無いのは多くの人に売り込んでる証、仕事熱心だから残っていないと言うことはないか?」  布川はそこまで考えているのかどうか確認したかった。 「それも考えました、ですが名刺の繋がりが浮かびません、建設、食品、繊維、水産、貿易、他の名刺もそうです。仮に該者が食品業なら、市場とか百貨店とかそう言う関係で揃わないでしょうか。故意に大手の名刺だけを選んでいるように思います」  並木は自宅に帰り名刺に穴が開くほどにらめっこした結論である。中西が頷いている。  
/281ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加