都橋探偵事情『莫連』

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「よし、そこまで考えているならいいだろう、ただし一日三時間だけだ。あまり根を詰めるなよ並木」  布川は心配した。並木は担当する事件に没頭する性格である。その事件以外は頭から離れてしまう。布川は並木の性格を踏まえて心配した。 「はい、ありがとうございます。ご迷惑を掛けないようやらせていただきます」  中西が並木の代わりに礼を言った。 「なっ、並木」  並木が中西を見上げた。二人は内幸町の喫茶『樹里』に向かった。薄暗い階段を下りてドアを開けると階段よりもさらに薄暗い中に煙幕が立ち込めている。客はカウンター席に一人いるがぼやけている。出入り口から死角になる三角の席に多田らしき男がいる。中西が手内輪で煙を扇ぐと多田が笑った。 「しかしいつ来てもすごいですねこの喫茶は」  中西が目を顰めた。並木も目を擦っている。 「何にするベイビー」  ママが注文を取りに来た。 「飯なら奢るぞ、遠慮するな」  多田がテーブルにメニューを滑らした。中西は先日のピラフで懲りている。 「ナポリタン大盛とレスカ」 「懲りずにいくのか?」  小声で言った。並木はピラフで懲りたと聞いていた。もう食わないだろうと予想していたが品を変えた、それも大盛にしたので呆れた。並木は「コーヒー熱いので」と注文した。しっかりと火が通っていないと危ないような気がしている。 「多田さん、うちの班長からラッシュ時からの三時間、許可を得ました。許可と言っても班長独断です。班長に迷惑掛けたくないので大々的に動けませんがよろしくお願いします」  並木が言った。
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