都橋探偵事情『莫連』

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「そうか、助かる。班長殿にはくれぐれも礼を言ってくれ」  多田が呼出煙の中で笑った。 「君には迷惑掛けるな、終わったら一杯奢る」  多田は一時的に一人になる中西に詫びた。 「気にしないでください。こいつがいない方が捗ることもあります。終わったらの一杯、楽しみにしています」  中西は並木の背中を叩いて言った。 「仲がいいんだな、同期か君等は?」 「俺は五輪の年に人手不足で今の班長に誘われました。こいつは刑事向きですが俺は駐在希望なんです。実は来年早々箱根にほぼ決まりでしてこれが最後の大きな事件になると思います」  並木が正直に明かした。 「もったいないな、君はスリ向きだ、俺の跡を継いでもらいたいぐらいだ」  多田は冗談抜きでそう思っている。 「大先輩の多田さんに認めてもらえるなんて光栄じゃねえか並木、ちんちくりんで顔ものっぺらして安物の服が似合うお前の取柄を生かしてこその多田さんのお言葉だ。俺も鼻が高い。駐在辞めてスリ専門の刑事に仕込んでもらえばいいじゃねえか」 「ちんちくりんで悪かったな、ありがとよ」  中西の誉め言葉は貶し言葉に聞こえる。並木は皮肉った。 「気にするな、俺等の仲は永遠だ」  中西には通じない。 「ああそうだ永遠だ」  中西が並木の首を絞めて称えた。この友情表現が実に苦しい。 「さあ私は先に出る」  多田が立ち上がった。
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