都橋探偵事情『莫連』

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「てめえ等人騙して恥ずかしくねえのか、貧乏人の出来心を誘いやがって。こんなことしてねえで悪党掴まえろ」  女は威勢がいい、中西をハイヒールで蹴っ飛ばす。真っ赤なスカートからパンツがはみ出ている。ホームには始発を利用する労務者や飲み屋の女が大勢いる、みんな笑ってこっちを見ている。中西は確かに汚いやり口だと思っている。追っているのはスリ集団である。三十人ほどの集団で東京、大阪や大都市で荒らし回っている。そのスリ集団のグルの一人が真金町の安宿で殺された。一緒にいたのは中年の女と言うこと以外に手掛かりはない。ホシの手掛かりを探るためスリ集団のグルを抑えることが目的である。 「お姉さん静かにしろって、赤い染みつきパンツ見えちゃってるよ」  女は黙らない。中西は女の腹を肩に担いだ。中西の背に女の連打。中西は捲れたスカートを手で直した。 「見るんじゃない、見せもんじゃない。どうしても見たい?ほら」  中西は若い作業員にサービスした。 「あの女は出来心だな」  布川が諦めていた。 「ええ俺もそう思います」  取り調べは県警から出向している榊刑事が行っている。 「名前は?」 「三好栄子」 「齢は?」 「二十一」 「齢は?」 「二十九」 「なんですった?」 「すってない、する前に手を握られた」  榊は女のバッグを調べた。小銭入れの中に小さく折り畳んだ一万円札が五枚入っている。
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