都橋探偵事情『莫連』

50/281
前へ
/281ページ
次へ
「和美、これを各部屋に回してしっかりと覚えるように言っとくれ。夕方は気を付けるようにしな。その女がまた現れたら仕事は止めな。逆に引き付けるようにしな」  玲子が和美に指示した。和美は頷いて部屋に戻った。 「番頭さん、それで地面師の方はどうだい?箱も危なくなりゃそっちが頼りさ」 「そのことで姉御に相談があります。見せ金を五十ほど回して欲しい。それと妙子婆さんと西川、横山の二人を貸してください。安く見積もっても五百は下らない土地です。ええ今日確認に行って来ました。五十は手付として大家に渡します。五百なら速攻で買い手が付きます」 「大きいね、よし番頭さん手配の方宜しくお願いします。地面売れたら一旦広島に戻りましょう、そして暫く関東は控えましょうか」 「ええ、その方が無難、大阪、福岡で三年ばかし辛抱してりゃこの騒ぎも治まるでしょう」 「和美の言った女が二郎と仙太殺しに関わりがあるかもしれないね。出来ることなら仇を取ってやりたい」  集団のボスとしてグルの死を見過ごしたくなかった。グルが死んでも捨て石だと他の連中に思われたくない。仲間を統一するにはこのまま放っておくことは出来ない。ボスとしての威厳を示す必要がある。和美の目撃した女は哀川瑞恵である。相馬紀子が水道検針の仕事に戻り一人でスリ集団を探っていた。二人共夫が痴漢の冤罪で人生を狂わせたその復讐である。真金町でひとり絞殺、東神奈川駅ホームでひとり刺殺した。後者の実行犯は水島悟である。アリバイつくりのために間を置いた方いいと二人で決めた。瑞穂は和美がスリであることを確認するために張っていた。そしてそれを確証した。しかし夫を死に追いやった女にしては齢が若い。もしかしたら他にもいるかもしれないと執拗になりスリの和美に気付かれていることも分からないでいる。また夕方のラッシュ時に東神奈川駅に戻ることにした。          
/281ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加