都橋探偵事情『莫連』

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「暇そうだね」 「ああ、相棒が浮気してんだ。何か気になってな、やる気がしない」 「一杯奢るよ」  中西は時計を見た。18:05.並木とは署で合流することになっている。 「やるか」  後で電話することにした。 「そうこなくっちゃ」 「よしおでんにしよう」  野毛方向の路地に入る。おでん屋は既に混雑していた。四人掛けに二人で占領している若い会社員が鞄を空席に置いていた。中西が睨み付けた。鞄を足元に移動させた。 「わりいね、気を遣わせちゃったね」  中西が礼を言うと二人は立ち上がり勘定を済ませて出て行った。 「ようしよしよし」  中西はベージュのトレンチコートを軽く畳んで空いた席に置いた。その上に焦げ茶のソフト帽を載せた。 「片っ端から食ってやろうか」 「あたいも腹ペコ」  中西は五品を二人前とビールを注文した。 「こないだは悪かったな」  中西が囮捜査を詫びた。 「あたいもバカなことしたよ。出来心とは言え人様の財布を掏ろうなんてさ。でもさあの刑事だけは許せない。あたい等パンパンだけどあんな責め方は良くないよ」 「悪かったな、ああいうのもいるんだ。許してくれ」 「あんたはやさしいね」 「俺が、そんなことはないさ」 「あたい等の商売どう思う?前からマッポに訊いてみたかったんだ。あんたなら答えてくれそう」  瑠璃子は竹輪を頬張った。中西はバクダンを一気に口に入れたが熱くて皿に戻した。
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