都橋探偵事情『莫連』

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「この金はどうした?」 「もともとあたいの金だよ、あんたにとやかく言われる筋合いはないよ」 「身体売って稼いだ金だろ、白状しろ」 「証拠あるのか、ふざけんな」  榊はバッグを逆さまにしてテーブルに空けた。コンドームを摘まみ上げた。 「これを何に使うんだ、これを」  榊は中身を出して親指に挿し込んだ。 「変態、あたいだって彼氏いるんだよ」 「嘘吐け、こんな大金持ってるわけねえだろ」  榊は女の髪を掴んで持ち上げた。 「何やってんだあんたは」  小柄な並木刑事が榊の手を払った。 「何だチビが、売春婦を摘発するんだ、下がってろ」 「榊さん、それくらいにしてやったらどうです」  布川が榊の虐めに近い取り調べを止めに入った。 「ほう、売春見逃せって言うの、だから問題多いんじゃないの伊勢佐木中央署は。俺が派遣されたのはそう言うことだって分かってるでしょあんたも。この女絞めりゃ必ず吐くよ、そうやって点数稼いで行かなきゃ元取れないよ」  年齢は布川の方が上だが県警からの出向、その理由は不祥事が続いている伊勢佐木中央署刑事達の管理担当である。昨年最ベテランが飲み屋で暴れて責任を取り引退した。三年前にはやくざとつるんでいた刑事が殺された。やくざとの癒着は新聞でも大騒ぎになった。 「ですが我等の捜査対象じゃありません。この人俺が連れて行きます」  中西が女を抱えて取調室を出て行った。 「おい待てこら、お前等誰から金貰ってんだ、市民だよ善良な市民、売春婦を逃がしてそれで私は警察ですって表に出れんのか」  榊の言い分に非はない、しかしその取り調べ手口は見るに堪えられない。 「一応上に報告する、俺の仕事だからな」  榊は出て行った。
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