都橋探偵事情『莫連』

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「精神異常?ひどいんですか?」 「普段はほとんど喋らないが興奮すると手が付けられないと親父が言ってた」 「生れ付き障害を持っていたんでしょうかそれとも家庭や学校でそのきっかけとなる何かがあったんでしょうか?」 「本人から聞いてください。私は捜索に出ます。水島悟の自宅は分かりますね」  吉川刑事は出て行った。管轄から出た殺人犯を一早く取り押さえたい気持ちで焦っている。二人は水島悟の父親に詳しい経緯を聞くことにした。やみくもに捜すより有力な情報を掴んで無駄をなくそうと布川の考えである。応援部隊であることが冷静さを保っている。 「水島さんですか、奥様はお気の毒でした。心からお悔やみ申し上げます」  布川に合わせて中西も頭を下げた。悟の父は妻の死に呆然としている。傍にいながら助けられなかっことを悔いている。 「こんな時ですが一刻も早く息子さんを捜し当てたい、そのためにご協力してください」  長男が母殺し、どっちも大切な存在である。第三者に殺されたのとは違う。怒り憎しみよりどうして普通の子に育たなかったのか。そうじゃない、育てなかったのだと自分自身を蔑んだ。小学校までは普通のどこにでもいる男の子が中学に入り自室に籠るようになった。その時を見過ごした。一時的なものだろうと構わなかった。それが取り返しのつかないことに繋がった。 「悟はどうなるんでしょうか?」  父親がポツンと言った。 「もし精神的な障害が認められればそれなりの処置が取られると思います。ご長男は精神科に診察を受けたことがありますか?」 「自室に籠り、時々母親に暴力をふるう。それだけで医者になんか行きませんよ。他所様に迷惑を掛けているわけじゃない」 「それだけって、奥さんは痛い思いをして亡くなったのに?」
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