都橋探偵事情『莫連』

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「母親ですからね、産んだ子の責任もあるでしょ。刑事さん、これ内輪の事としてなかったことに出来ませんか。私が妻を亡くしたのを我慢すればいいことですよね。ご近所にも迷惑を掛けていない。だからなかったことにしてもらえませんか?」  確かに父親の言うことに一理ある。どんなに残酷だろうと家族の問題である。残された家族が我慢すればそれで済むことでもある。布川は成人した子の犯罪を親の教育に結び付けることには無理があると常々思ったいた。しかしこの親あってこの子ありと持論を覆された。 「誰にも迷惑を掛けていないと言う議論はどうでしょう、近隣地域の方々は殺人犯が街を徘徊していると恐怖に怯えています」 「あの子は親意外に暴力などふるえません。だから私が我慢すればそれでいいじゃないですか。あなた方が大騒ぎするからみんな驚くんですよ。悟の捜索を止めてください。そのうち戻ります。私と二人で生きていきます」  妻を失ったばかりの男に二人共強く言えなかった。そうでなければ投げ飛ばしてやりたいと中西は拳を握った。 「息子さんは引き籠りですよね。髪は誰が?床屋で、それともお父さんかお母さんが?さっき写真を見せて頂いたんですが肩まで掛かる長髪ですよね。どうして刈り上げに?」  父親は中西を見た。 「分かりません、小学生の時から長髪が好みでした。二日前に帰宅した時に刈り上げていたので驚きました」 「それじゃ外出していたんですね。引き籠りじゃないじゃないですか」 「初めてです、家を飛び出したのは、心配で人捜しをお願いしていたんですが突然帰宅してこんなことに」 「人捜しって何処に?警察ですか?」 「知り合いです」  水島は興信所に依頼したことを隠した。それは自分が登山に持ち歩く折り畳み式のナイフを持ち出しているからである。そのことを興信所で話した。帰宅した時は持っていなかった。警察にナイフのことが知れると厄介だと思ったからである。
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