都橋探偵事情『莫連』

64/281
前へ
/281ページ
次へ
「お知り合いに人捜しをお願いしたんですか、それで手掛かりはありましたか?」 「頼んで二日後に戻りましたから僅かですけど謝礼を支払いました」  二人は何かを隠していると感じた。 「息子さんはいつ出て行ったのですか?」 「帰宅したのが一昨日、出て行ったのはその十日前です」 「その十日間に電話連絡はありましたか?」 「ありません」  吉川刑事がメモ書きを持って来た。水島に一礼して出て行った。そのメモには母親殺しの凶器がズボンのベルトであると判明した。そう書いてある。 「こんなこと聞きにくいんですが奥様が暴行されているときご主人はどこで何をされていましたか?」  中西が訊ねた。 「居間で新聞を読んでいました」 「それじゃ見ていない、気が付かなかったんですね?」 「奥様は息子さんと二人で二階にいたんですね」  絞殺は声も出せないと言うがもがき苦しむ。バタバタと足を踏んだのではないだろうか。木造の家なら足音は響くだろう。 「奥様の声、ご主人を呼んだり、また苦しんで床を叩く音などは聞こえませんでしたか。うちもそうですが子供等が二階で走り回ると足音が聞こえます。倒れて発見されていたそうですが相当な音がすると思いますが」  布川が誘うように話した。 「聞こえていたら二階に飛んで行きますよ。それよりもういいでしょ、あの子が帰宅した時私がいなければ悲しむ。早く帰してください」 「ご主人、その手は切り傷ですね。息子さんにやられたんでしょ」 「違います。これは私が慌ててナイフで切ってしまった」 「誰のナイフです?」 「私の登山用のナイフです」
/281ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加