都橋探偵事情『莫連』

66/281
前へ
/281ページ
次へ
「もしもし」 「あたし瑞恵。頷くだけにして」 「はい」 「悟君が逃げて来てうちにいる」 「はい、それで?」 「お母さんの首を絞めたって言ってる」 「分かりました。すぐに行きます」  紀子は難しい表情をして叔父の危篤と上司に嘘を吐いて早退した。今朝一番に水島宅に様子を見に行った。プロパンに石をぶつけると金属音がする。その音が二階の悟に聞こえる。雨戸の閉めていない片側の分厚いカーテンが少し捲られた。紀子は尻を突き出してメーターボックスを外した。悟の視線を感じ卑猥に尻を振った。蓋を閉めて悟にウインクした。悟の手は自分の一物を握っている。紀子はいつもと変わらない悟に安心して検針に戻った。そして今哀川瑞恵からの急報である。瑞恵宅に入ると悟は正座をしていた。 「どうしたの悟君?何があったの。朝あたしが行ったの見てたでしょ。あたしをおかずにやったんでしょ?」  悟は頷いた。 「お母さんをどうしたの?」 「ズボンのベルトで首を絞めた」 「それでお母さんは?」 「倒れた」 「死んだの?」 「そん時は動いた」 「お父さんは?」 「僕が逃げるの止めようとしたからお父さんのナイフで切り付けた」 「それでお父さんは?」 「ナイフを掌で受けて取られた」 「それで逃げたの?」  悟は頷いた。紀子は考えた。悟が捕まれば全てを吐いてしまう。 「悟君臭い。お風呂入っている?」  悟が首を振る。瑞恵が風呂の用意をする。
/281ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加