都橋探偵事情『莫連』

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「あたしの残り湯だけどまだ温かいからすぐに沸くよ。おいで」  瑞恵が悟を風呂に案内する。 「きれいに洗うのよ。あとでお姉さんがやさしくしてあげるから」  紀子が笑うと悟の顔に笑顔が戻った。 「どうするのあの子?」 「もしお母さんが死んでたら手配されてる」 「危ないわね」 「問題は何処にどうやって捨てるか」  紀子は水道検針であちこち回っている。ひと気のない場所をいくつか思い浮かべている。ここで殺したら運べない。現場で殺してすぐに落とす。川か海か谷か。それも早い方がいい。 「軽井沢に死んだ旦那んちの別荘がある。あの裏ならしばらく見つからない」  瑞恵が提案したが紀子は首を振った。 「危ないわ、普段使用していない別荘でも電気水道の検針に回る。それに田舎は犬を放して散歩するわ。意外と早く足が着く」  紀子は仕事柄日常の営みに詳しい。 「でも近場じゃすぐ見つかるしね」 「そうだ遺書書かせましょう」 「いくら出来の悪いあの子でも感付くんじゃない」  紀子はバッグから短い鉛筆を出した。瑞恵が広告の裏をテーブルに置いた。鉛筆キャップを抜いて『お母さん御免なさい』と書いた。 「それなら気が付かないね」  瑞恵は笑いながら便箋を出した。 「それでどこで?」  紀子は幾つか浮かんだ候補からひとつを選んだ。 「野毛山公園にしましょう」 「うちから近いじゃない、それに野毛山の交番があるわ」 「ここからタクシーで水道道を行けば交番の手前で降りて公園に入れる。静かよ」 「どうやって?」            
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